武藤さんのスケッチノートと絵コンテ。普段の研鑽がコンテにも活かされている。

100%でOKな仕事を100%に+aで応える

2人のお仕事に共通点はあるのでしょうか。

武藤
「僕の絵コンテも、撮る事を考えて現実的に描く事はあるけど、現実的すぎてもつまらないし、壮大すぎると”撮れないよ!”って言われちゃう。加減は大事で、そこが僕の課題でもある。 僕らの仕事で共通するのは、「君に頼みたい」って依頼主の期待にどれだけ応えられるかだよね。 竹谷さん(本校卒業生・造形作家)も言っていたけど”100%でOKな仕事を100%に+aで応えるっていうのは、すごく大事だなって思う。」
渡邉
「100求められて100返しても300円払って300円のお菓子が来たって感じだよね。」
武藤
「その300円のお菓子にちょっとしたオマケがついていたら嬉しいでしょう。“聖馬が絵コンテ書くからこういう絵になる”って言ってもらえれば楽しい。それが次の仕事に繋がってくれるなら僕だって嬉しいし。それこそまさにwinwin。だから+aっていうのが、仕事では大事なのかなって。」
渡邉
「それは思う。」

対談の前に(画像で) リビングプロダクトデザイン出身の渡邉さんには「武藤さんをプロダクト化してみてください。」 キャラクターデザイン出身の武藤さんには「渡邉さんを描いてください。」 という、広報担当から突然の無茶ぶりにも快く応じてくれました。

渡邉さんの描き出しは武藤さんへのブレストから始まりました。(以下敬称略。写真左:渡邉さん、写真右:武藤さん)

渡邉
「武藤、といえば特撮系だよね。変身するとしたら、どんなベルトで、どういう変身方法なの?」
武藤
「僕が変身するとしたら?シンプルなのがいいな。あと、走りながら変身したい!」

黒板に迷いなくスルスルと描き始める武藤さんとは対照的に、渡邉さんはまず、聞き取りから始めてキーワードを羅列していく。 制作のスタイルも過程も違う2人が印象的です。

渡邉
「名前にも”馬”の文字が入ってるし、ベルトは馬の蹄にしようか。これを、こう、こっちに回すと…」ー武藤の言葉や要望を書きだしながらー
武藤
「フォームチェンジするの?」
渡邉
「そう。最終的にアルファベットになったらすごく面白いと思う。」

変身ベルトの仕組みを書き出しながら説明する渡邉さん

一方、武藤さんの描いた渡邉さんは……

武藤
「僕の中での磨哉ってやっぱり、灰色地のバナナの描いてあるパーカーで、ロック大好きオタクなイメージがあるので。 結局はその、渡邉 磨哉という変態を描いたんです。後ろは磨哉が笑ってる顔で、口はバナナになっていて、身体中からキノコ生えながら歌ってる。キノコ頭の磨哉くんの図。」
渡邉
「不衛生…。」
武藤
「ちょっとね、不思議な国から来た感じ。でも、もっと面白いの描きたかったな、意外と面白くならなかった…大反省だ。」
渡邉
「僕は、”武藤くんをテーマにしたプロダクト”ということなので、最初に色々ブレストをしていって、変身ベルトにしようと思いました。 ”馬”っていう字をキーワードに出して、武藤くんからの要望であるシンプルなガジェットにして、蹄をガシャッと回してフォームチェンジするというところまで。 まぁこれが、アルファベット馬(UMA)のUになっていれば面白かったかなと。」
武藤
「蹄が”SHOMA”になったらカッコイイ。」
今いる自分に窮屈になる。

2人がアサビを選んだ理由を教えてください。

渡邉
「聖馬は絵を描くのが好きって言うけど、アニメーターになろうとは思わなかったの?アニメだと全部を絵でコントロールできるわけだよね。」
武藤
「アニメーターになろうとは思わなかった。1秒のために何十枚も絵を描くことになる、シンプルにしんどいと思って。 だから漫画家になろうと思って小3から中1くらいまで漫画を描いてたけど、プツンと飽きたんだよね。 気づいたら、自分はコミュニケーション下手な男の子だったから”人と関わって人波に揉まれないとダメだ。変わらなきゃ!”と、野球部に入った。 3年間野球をしたけど”やっぱり絵に関わらないと死んじゃうな”って思って。僕は絵を描くのが楽しいし好きなものがあるから、好きなもので仕事したいなと思ったんだ。 でも、特撮につながる仕事に就くために、どこから手をつけていいかなんて調べたって出てこない。特撮の仕事の中でも助監督や照明、いろんな仕事がある。絵に関わる仕事といったらキャラクターデザイナーとか色々あるけど、それも、どの学校に行ったらいいかわからない。そもそも学校に行けばいいの?って話だし。じゃあ、自分が目指す職に就いてる卒業生がいる学校に行けばいい、っていう考えに行き着いて、雨宮慶太さんや寺田克也さん、竹谷隆之さんが出てるからアサビにしようと中学の時に決めた。」
渡邉
「進路決めるの早かったんだね。初めて聞いたよ。僕も小2から中2くらいまで絵画教室に通っていて、静物を描いたりデッサンをしてた。 中2の時に、やっぱり飽きたんだよね。中学3年で歌手を目指している彼女ができたんだけど、自分とは全然世界が違った。その影響もあって楽器とか始めようかって。 その時、僕も思ったのが”自分、コミュニケーション下手だ”って事。彼女の世界を見て、自分は絵が好きだったけど、それだけに留まってるよりやりたい事やってみようって思ったんだよね。」
武藤
「今いる自分に窮屈になる。」
渡邉
「そうそう。」
武藤
「なんとか広い世界に行ける自分にならなきゃって思うよね。」
渡邉
「高校でバンドに入ってから完全にキャラが変わった。まさにこれだよね(武藤くんが描いた黒板の絵を見ながら)」
武藤
「それ、慣れた?」
渡邉
「対外的にはそう見えるようになったよ。でも元々のマインド自体はちょっと違う感じがあって。高3くらいから”楽しいけど本質的に合わないかも”と思い始めて進路を考えた時にやっぱり美術・デザイン系だな、と。」
武藤
「戻ってきたんだ」
渡邉
「そうそうそう。でもアートはやりたくなかったんだ。」 

武藤さんが描いた「不思議な世界から来た感じ」の渡邉さんを見ながら「まさにこれだよね。」と高校時代の思い出を語る。

武藤
「そうなんだ?でも、なんで比較的他の学校よりもアート寄りなアサビにしたの?」
渡邉
「最初アート寄り、というのが分からなかったんだ。行くとしたら美大か専門だと漠然と思っていた。 でも当時の自分は、デッサン力が全くなかった。受験をするなら高2くらいから準備しないとじゃない?自分は間に合わないし、そんなに美大行きたいかって考えたら”4年間も居られないな”と。 ちょうどアサビの学校説明会も聞いてアサビにはいろんな学科の奴がいるっていうのも良かったし、リビングプロダクトデザインの中だけ見てるとそんなにアート寄りって感じもなくて。」
武藤
「面白いね。アートはやりたくないのにアートって名のつく学校に来るなんて。変わってるよね。」
渡邉
「やりたくないけど、それしかないと考えてた。」
新しいゲームをやらせてもらったような。

実際にアサビに入ってからの印象はどんなものでしょうか。

武藤
「僕は”写真映像の授業”が印象に残ってるかな。助手さんが居て、僕らの撮影を見かけるとアドバイスくれたり。 アサビの1年生は、そうやって見守られた中で自由に好き勝手に撮影できてたっていうイメージが強い。 僕ら素人なりに”ああしてみよう、こうしてみよう”って、考えて実行できて、つないでみたら映像的に面白くて。映像の授業がすごく楽しかった。 だから、僕は”絵”専攻でアサビに入ったけど、1年で映像を撮る楽しさを学べた。 入学時は映像業界よりキャラクターデザインをしたかったから、この授業がなかったら絵コンテはやってないと思う。僕にとって映像の授業って人生変えられたな、って思う。」
渡邉
「その意味で言えば、僕も自主的な映像やることの面白さに触れられた。」
武藤
「”遊び”を教えてもらったよね。新しいゲームをやらせてもらったような。」
渡邉
「僕が印象に残ってる授業と言えば”アドバンスデザイン”。 週1でプレゼンボードを作って、発表するっていう授業。同じ1ヶ月という期間でも週1でプレゼンがあるのと、月の最後に作品を見せればいいよ、っていうのじゃスピード感が違う。 やっぱり、週1で何かしらの成果、”最終形ではないけれど、ここまで進んでますよ”っていう感覚は 実際に仕事をしていても多いし、辛かったけどやった意味があった。 あと、業界の人との関係が得られた事かな。(鎌倉プロジェクト)授業でアイディア賞に出てみたら、そこに業界の人たちが集まっていて、業界の人がどこに居て、どんな仕事をしてるのか、知ることができた。先生も現役なので、どういう考えで仕事をやっているのかを教えてくれていた。」

渡邉さんは、学生時代、夜8時まで学校に残っていた印象があるのですが、何をしていたんですか?

渡邉
「まず、夜8時まで学校に居るっていうのは誤解で、3年間のうち半分くらいですよ。半分は家に帰ってご飯作っていましたよ。 でも、学校にいる時はアイディア出ししたりとか自分の作業をやっていました。家でできることって少ないんですよ。 僕の実家は兄と部屋が一緒なので、横で※スタイロとかしてると粉が出ちゃうし、モックは大きいし、うるさいし、兄はTV見てたりするし。 卓上で絵を描くくらいはできるけど。A4ギリギリで、A3を描きたいときには狭いから、作業場として学校を使っていました。インクジェットプリンタや3Dプリンタもあるし。使い放題でしたね。」

武藤さんは授業終わったら何をしていましたか?

武藤
「友達と話をして、カラオケに行っていた。 カラオケ以外の時は、何か考えている。絵を描いたりストーリー考えてみたり。考えないで歌ってるだけでいい時間がワンクッションで、リフレッシュできてました。」
渡邉
「基本、聖馬はやることがないとダメなんでしょ。カラオケもやることがあるから好きなんじゃない?」
武藤
「そうかもしれない。カラオケが大事なんじゃなくて、そのワンクッションが大事って感じだね。 一番行ってた時は週3でカラオケ行ってた。学校が午前だけの時はもう午後ずっと日が落ちるまでカラオケ。夜家に帰って深夜まで絵を描いて、学校に来るという毎日。 だから、カラオケも制作も全部に対して真面目に一生懸命やるから良いバランス取れてたと思う。遊べない日は、家帰ってひたすら絵を描いてた。遊べる日は帰って遊んでからずっと絵を描いてた。絵を描くか、映像編集。合成したり。」
渡邉
「僕はご飯を作らなきゃいけないから、どうしても規則正しい生活になるんだよ。」  
”コイツと何か作ったら面白いな”っていうのが見えてきて。

お二人は在学中、1年生のクラスも専攻も違いましたが、一緒にものを作るきっかけはどんなものだったのですか?

武藤
「僕が1年の時に”友達作らなきゃ”と思って、中庭で”男子友達”を一生懸命集めたんですよ。」
渡邉
「それで”サンタフェ”っていう撮影チームを作って。」
武藤
「そのチームで課題の撮影と……、その後も色々作ったよね。マヤくんが一生懸命協力してくれて。それから”コイツと何か作ったら面白いな”っていうのが見えてきて。それがきっかけでした。」
渡邉
「このチュロキャットはもともと、学園祭・アサビフェスタで出店したチュロス屋の販促プロモーション用に撮ったものでした。」
武藤
「そうそう。マヤくんはチュロキャットで役者として関わってくれて。その後に撮った”咲与”ではスーツメインクリエイターをしてもらった。チュロキャットの時は大変だった。本当、ひどい事したよ、俺。……楽しかったけど。」
渡邉
「僕はヒロインの兄役で出演した。」
武藤
「敵役もやってくれたよね。公園でチュロキャットに殴られて転ぶ役を。」
渡邉
「あの時は頑張ったんだよ、クルッと回って倒れたりとかして。」
武藤
「みんなでアイディアを出し合って、試行錯誤しながら僕は楽しく制作できてたけど、結構みんなを振り回したよね。クリスマスに撮影したり。」
渡邉
「あの日はフリーのやつが多かったから(笑)チュロキャットはプロモーションから派生したものだから、オリジナルの特撮企画もやってみようってことで”咲与”を制作したよね。」 

制作した特撮ヘッドと久々の対面を果たす2人。「うわ~懐かしい。」「今見ると作り直したい…」と制作時の思い出が溢れてくる様子。

手伝うってよりは、責任を負おうって気持ちはあった。
武藤
「みんなで狭い部屋に集まって」
渡邉
「撮影は明日だっていう時に……」
武藤
「僕がキャラクターデザインを数点を出したら、みんなが黙っちゃって”こんなの作れない”って。」
渡邉
「びっくりしたもんね。最初の案を見て。」
武藤
「必要以上にディテールを描いちゃって。2案に絞って、多数決したら同点。最後1票は僕。だから自分がやりたいデザインに票を入れたんだ。」
渡邉
「俺はもう1つの案に票を入れてたんだよ。」
武藤
「そう、スーツを作るのは磨哉に決まってた。だから僕の礼儀としては、磨哉が好きな案をとるべきだったんだけど、学生でスーツ作るってなかなかできないから”磨哉ごめん”ってお願いした。 他の人が作れる気がしなかったし、仮に、思い通りにいかなかった場合でも、磨哉ならちゃんと撮れるものを作るって絶対的な信頼があったから。」
渡邉
「自信満々に見えるんでしょ?」
武藤
「それもある。でも他の人は”手伝ってる”って感じなんだけど磨哉は”俺がやってる”っていう感じで、他の人と制作に対する姿勢が違った。」
渡邉
「手伝うってよりは、責任を負おうって気持ちはあった。」
武藤
「それ。僕がやりたいことに対して、マヤなりに”僕はこうしたいけど、どうだろう”?って磨哉なりの脳味噌でもって一生懸命”一緒に並んでくれた”感じがして。」
渡邉
「大監督にそんなこと言われるなんて(笑)」
武藤
「やめてよ。大監督だなんて。(笑)」
渡邉
「自分は、単に”お手伝い”っていうのができないんだよね。今、会社に行ってわかるんだけど、マインド的に向いてない。」
武藤
「そういうマインドなのに、なんで撮影に協力してくれたの?」
渡邉
「授業の課題ではプレゼンに備えて計画的に、”1日前には仕上げる”くらい、すごく真面目にやってたけど撮影では”これ、どうする?”ってその場で決めていく。 あのヒリヒリした感じが好きだったからかな。それができる、そういう状況がある、そんな場所が面白くて。仕事でそんなことがあったら大惨事になるけど(笑) あとは意地かな。投票の時”こっち”がいいって言ったのに武藤が”これにする”って非対称のデザインを選んだから、意地で作ったよ。」
武藤
「非対称は絶対やりたかったんだよね。チュロキャトが”人工的に作ったスーツ”っていう設定だったから咲与は”人がバイオ的に変化した姿”にしたかった。着られる形になって、正直驚いた。 僕は仕事をしていて、”他人のために作る”という責任はあるけど、これを作っていた時の楽しさは忘れないようにしてる。気持ちはこの2つ(チュロキャットと咲与)を作ってた時と変わってないんだよね。」